『源氏物語』の中には、和尚の寺の本山である長谷寺も
登場します。
「仏の御なかには 初瀬なむ 日の本のうちには
あらたなる験現したまふと 唐土にだに聞こえあむなり」
玉鬘巻には、長谷寺の観音さまの霊験に対する信仰や
実際に参詣の様子が描かれています。
平安京から直線距離にして50km以上も離れ、しかも
交通が不自由な平安時代・・・。普段は自分の足で歩くことも
ない姫君たちが、山を越え徒歩4~5日の行程・・・。
「生ける心地もせで」(玉鬘巻)というのも納得です。
でも、そこまでもして長谷寺の観音さまへの霊験が広く
浸透していたのでしょう。
この玉鬘(たまかずら)とは『源氏物語』五十四帖の巻名の
ひとつで、玉鬘という女性の半生を中心に描かれたものです。
玉鬘は、『源氏物語』の中で最も美人であったという説も
あるくらいで、その美しさが引き起こす騒動に翻弄され
影のある数奇な運命をたどった女性です。
玉鬘は、わけがあって九州の方へ身を隠していたけれど
亡くなった母に会いたい一心で、長谷寺で祈願をします。
その宿で、偶然にも母の侍女であった右近と巡り会います。
玉鬘と出会ったとき、右近は次のような歌を詠みます。
「ふたもとの 杉のたちどを たづねずは 古川野辺に 君をみましや」
二本の杉の立っているところを訪ねてこなかったら、古い川の
岸辺で、あなたにお会いすることができたでしょうか?
まさに奇跡の出会いで、玉鬘はその後に右近の紹介で源氏へ引き取られる
という、そんなシンデレラストーリーが記されているのです。
長谷寺の境内にある、この2本の杉が、王朝から続くロマンを
いまも語り続けています。
古代から長谷寺の観音さまには、そんな縁結びの御利益があるのですね。