梅の実に宿る神仏



梅雨入りも発表され、雨の季節となりました。
「梅の雨」と書くのは、ちょうどこの頃が梅の実が大きくなる時期だからと
いわれています。天の恵みをたっぷり吸って、今年も立派な梅の実がたくさん育つ
といいですね。梅干しは精進料理にも欠かせない大切な食材です。

梅の実といえば、その種のなかにある白い部分、核や仁といいますが、これを
「天神さま」と呼ぶことがあります。日本人にとって、梅といわれて真っ先に連想する
のは天神さま、菅原道真公だったのでしょう。

また青い梅の実の核には毒があるので、これをかじるな、粗末にするなという教え
だったともいわれています。

道真公は平安時代の初期、右大臣にまで出世した大変有能な学者でしたが、ライバル藤原氏の
陰謀によって九州太宰府に左遷され失意のうちに亡くなってしまいます。

ところがその死の直後、陰謀の首謀者だった藤原時平や関係者が次々に不慮の死を遂げるに
及んで、人々は無実の罪で失脚させられた道真公の祟りではないかと噂しはじめます。

折も折、宮中清涼殿に雷が直撃し、会議に出席していた公卿たちの多くが死傷するという
前代未聞の大事件が起きます。

これが決定打となって、「道真公は死後に天神、雷神となって政敵に復讐を果たしたのだ」という
ストーリーが広く信じられるようになったのです。

天神社、天満宮は、もともとは恐ろしい祟り神となった道真公の怒りを鎮めるために
造られた神社でした。

しかしその甲斐あってか、道真公はやがて荒ぶる雷神として恐れられるのではなく、学問の神さま
として広く庶民にまで信仰されるようになりました。

そして、受験戦争の時代になるとその人気はますますうなぎのぼりに。日本で学生時代を過ごした
方ならば、一度は天神さまに合格の祈願をしたことがあるのではないでしょうか。
そういう意味では、道真公は現代日本でもっとも頼られている神さま、といっていいのかもしれません。

道真公は天神、正式には「天満大自在天神」という神になったとされていますが、天神さまを祀る
神社には、かつては十一面観音を安置しているところが多くありました。

なぜかというと、神仏習合の信仰のもとで、天満大自在天神は十一面観音が姿をかえたものだ
とも考えられていたからです。

つまり道真公は人でありながら神さまとなり、やがて観音さまにもなった、ということ。

非業の死を遂げた人物がおそろしい祟り神となり、それが学問という人類の叡智の神となり、
ついには慈悲の存在である仏さまになる。

その華やかな立身出世(?)は、日本人の信仰観をみごとに象徴しているようでもあります。

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