何もラベルのないビデオテープがあったので
デッキに挿入すると黒澤明監督の映画『生きる』だった。
30年間、何もしないまま勤め上げようとしていた
市役所の課長が、自分が癌であることがわかる。
死を突然宣告され、余命の短さの苦悩の中から、
自分の人生を見つめ直し、小さな公園の建設に奔走する。
死に直面した人間の心を通して、「生きる」ことの意味を
表現しようとした作品だ。
人間は、同じようなパターンで何となく生きていると、
記号化されてしまい、その記号化された中でしか物事を
考えられなくなってしまう。
そして、それが案外居心地が良かったり、違うことをして
いる人間を批判したり、無視したり、仲間の中に引きづり
戻そうとしたりする・・・。
黒澤監督は、その制作の意図を、こう語っている。
「この映画の主人公は死に直面して、はじめて過去の自分の
無意味な生き方に気がつく。いや、これまで自分がまるで
生きていなかったことに気がつくのである。そして残された
僅かな期間を、あわてて立派に生きようとする。
僕は、この人間の軽薄から生まれた悲劇をしみじみと描いて
みたかったのである」
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