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-仏教一年生 山田真美

作家、日印芸術研究所言語センター長の山田真美さんの連載です。
プロフィール紹介

仏教一年生 山田真美・著

第37回 「智の器」としてのお寺の面白さ


 このたび、生まれて初めて大学生用の教科書を執筆させていただきました。図書館学の教科書です。

 図書館学。英語では“Library Science(ライブラリー・サイエンス)”。
 あまり耳になじみのない学問かも知れませんが、図書館という場所は、人類がこれまでに連綿と築き上げてきた「叡智」がぎっしり詰まった、いわば宝の山。インターネットが登場する前は、そんなふうに人間の智恵を一か所にまとめておくことのできる場所は、図書館以外にはなかったと言ってよいでしょう。
 つまり図書館学は、人類の「智(ち)の器」である図書館という場所についてさまざまな角度から研究する、なかなか奥の深い学問なのです。

 それにしても、これまで専門的に図書館の勉強をしたこともない、図書館の司書をしたこともない私が図書館学の教科書を執筆することを不思議に思われた方もいらっしゃるかも知れませんね。それには、次のような経緯があったのです。
 あれは2008年のことでした。よく知っている友達から、「図書館のシンポジウムに出て、講師として何か話してみませんか」というお話をいただいたのは。
 皆さんは「図書館総合展」というイベントをご存知でしょうか。これは、みんなで知恵を出し合って「図書館の未来」を考えるために、文部科学省、国立国会図書館、国立公文書館などが主催して行なっている毎年恒例のイベントです。2008年の段階で既に第10回を迎えていました。
 このときのシンポジウムでは、デザイン研究所の所長さん、慶應義塾大学の教授、それに私の3人がそれぞれの立場から図書館を捉えて多角的にお話しするという趣向でしたので、依頼を受けた私は、

「それならば、ぜひともインドの図書館にまつわる話をさせてください。タイトルは『ランガナタンの故郷で考えたこと』でお願いします」

と即答していました。
 ランガナタンといっても、ご存じない方が多いかも知れませんが、この人物は1892年に南インドのタミール・ナドゥー州に生まれた有名な数学者です。その数学的知見を活かし、「図書館学五原則」や「コロン分類法」と呼ばれる図書館分類法などを考案したランガナタンは、「図書館学の父」と呼ばれています。
 シンポジウムで私は、ランガナタンを生み出したインドの文化的土壌の豊かさをテーマに、宗教や言語などさまざまな角度からお話しました。すると講演後に大勢の方が名刺交換に来てくださり、「こういう角度から図書館学を切り取るのは珍しいし、目からウロコですね」「もっとお話を聞きたかった」などとお褒めの言葉をいただきました。
 翌年の第11回図書館総合展にも講師の一人として呼んでいただきましたから、「面白かった」というのは、まんざらお世辞ではなかったのかも知れません。
 そうこうするうちに、「山田さんはインド文化にずいぶん詳しいようだから、新しく書き下ろす図書館学の教科書の執筆陣に加えようじゃないか」ということになったらしいのです。私のところへ図書館学の本の執筆依頼がきたことの裏には、実は、そんな経緯というか「前置き」があったのでした。

 私が「インドの図書館のここが面白い!」と思うポイントの一つは、インドでは図書館のはじまりが仏教とほぼ「イコール」でつながっていることです。
 ご存知のように、大きな仏教寺院には「経堂」とか「経蔵」とか「経庫」と呼ばれる建物(あるいは部屋)があります。これらは、文字どおり「お経を保管しておく建物」のことで、お寺の中でもとりわけ大切にされている聖域であろうと推察します。
 私はよくヒマラヤのお寺へ行くのですが、そういうお寺の経堂の入り口に、チベット文字などに交じって“Library”(ライブラリー)と英語の標識が掛けられているのをたまに見かけます。
 最初に見たときは、

「なるほど、『経堂』を英語に直せば、ずばり『図書館』なのね!」

と、それこそ目からうろこが落ちる思いがしました。
 現代では、図書館には(反社会的な内容のものなどを除けば)ほぼあらゆる種類の本が入っていますけれども、最初の頃、つまり紙が貴重で、印刷技術もなく、お坊さん達が一生懸命手書きでお経を写していた昔までさかのぼれば、「書物」といえばすなわち「お経」を示していたことでしょう。
 実際のところ、たとえば今でも英語で「本」(book)に定冠詞の「the」を付けて“The Book”とすれば、本の中の本、すなわち『聖書』という意味になります。英語では、単語の頭に“the”を付けることによって「これ一つしかない」という意味が付加されますから、“The Book”はつまり、「本といえば、これしかない!」という意味です。イスラム教にも経典は『クルアーン』(コーラン)1冊しかありませんから、本といえば『クルアーン』を意味します。
 これに対して仏教の場合は、経典の数が驚くほど多く、『聖書』や『クルアーン』のように1冊の本にまとめることなど到底できません。
 実際、世界のありとあらゆる宗教の中で、仏教ほどたくさんの経典がある教えは他にないのではないでしょうか。そして、それらの膨大な数のお経(形態としては葉っぱに書かれていたり、巻物だったり、色々でしょう)を保管するために、かなり広くて立派なスペースが必要だったはず。それも、火事などの災害に遭いにくく、たくさんの経典の中から求めている1巻がすぐに見つけ出せるようなスペースでなければなりません。
 こう考えてみると、経堂(=仏教の図書館)が発達した近因として、仏教の経典の数のおびただしさが影響していると思います。
 では、仏教が生まれる前のインドではどうだったのか、と申しますと、経堂(図書館)の前身となるような建物があったという記録は見つかりません。
 仏教が生まれる前のインドには「バラモン教」と俗に呼ばれる古い宗教があり、そこには『ヴェーダ』(智恵)と呼ばれる膨大な経典が存在しました(これらの経典は多かれ少なかれ、現在のヒンドゥー教に受け継がれています)。
 ところがバラモン教では、いくつかの理由から経典を文字に書き表わすことが禁じられ、すべては「口伝」によって伝承されました。その理由の一つとして、バラモン教では階級による区別が明確であったために、「お経を読むことを許された人」と「許されない人」の両者が社会に同時に存在したことが挙げられると思います。
 これに対して、バラモン教よりも後で生まれた仏教は万民の平等を説いたため、お経は基本的に「みんなのもの」でした。そのため、経典は次々に文字によって書き表わされ、写経僧の手で複写されて、各地のお寺へと広がって行ったわけです。
 そうなると当然、どこのお寺でも経堂が必要になります。こうしてインド各地で経堂が発展していったわけですから、要はインドの歴史を通じて最も古い図書館は、実は「お寺の経堂」だったということですね。

 そのなかでも特筆すべきは、ナーランダ僧院の中に在ったという図書館のスケールの大きさでしょう。
 ナーランダ僧院は紀元427年の創設で、ここにはインドのみならず近隣諸国からも大勢の出家僧が集まって修行に励んでいたといいます。僧院は、出家僧が共同生活をする場であると同時に、専門的に仏教を学ぶ場でもありました。そういう意味合いから、ナーランダ僧院は今では「ナーランダ大学(Nalanda University)」とも呼ばれており、その場合には「世界最古の大学の一つ」であったと信じられています。
 『西遊記』で知られるかの三蔵法師が留学していることからも、ナーランダが当時最高水準の仏教の学びの場だったことは明らかでしょうね。
 そのなかでも特に驚かされるのは、ナーランダ大学の図書館の規模です。キャンパス内には巨大な図書館が何棟もあり――といっても写真が残っているわけではありませんから頭の中でイメージしてみるしかないのですが――いちばん大きな物は9階建てだったとのこと。
 当時の技術で、一体彼らはどんなふうにして9階建ての図書館を造ったのか。そこで勉学に励んでいた留学生(るがくしょう)達は、どんな姿で、どんな言葉で話をしていたのか(ずいぶん色々な国から留学生が集まっていたようです)。……目をつむってその光景を想像しただけでも、何だかわくわくしてしまいます。
 特筆すべきは、ナーランダの図書館が仏教学のみならず、世界中のありとあらゆる学問の文献を完備していたということ。あらゆるものに心を開き、あらゆるものを遍(あまね)く理解し受容しようとする仏教本来の姿が、このインドの古い図書館にはしっかり息づいていたのでしょう。

 というわけで、ナーランダ僧院(大学)のことも記載した教科書は無事に出版されましたので、どこかでお目に留まりましたら(それこそ図書館で?)ぜひともお手に取って読んでいただければ幸いです。

※著書名:『図書・図書館史』(現代図書館情報学シリーズ第11巻)
 発行年月:2012年5月発行、
 発行所:樹村房
 山田はインドとイスラムの図書館の項目をそれぞれ担当しています。





山田 真美(やまだ・まみ) プロフィール紹介

山田真美・著書作家、日印芸術研究所言語センター長。密教学修士(高野山大学)。現在、お茶の水女子大学大学院博士課程後期在学中。
1960年長野市生まれ。明治学院大学卒業後、ニュー・サウス・ウェールズ大学(豪)でマッコウクジラの回遊を研究。 その後インド政府の招聘でヒンドゥー神話を調査研究。1996年より6年間ニューデリー在住。
主な著書にダライ・ラマ法王へのインタビューも収録した『死との対話』、ベストセラーとなった『ブースケとパンダの英語でスパイ大作戦』など。
訳書に第二次世界大戦の秘史を扱った『生きて虜囚の辱めを受けず』。
長年にわたりインドを日本に紹介してきた功績を認められ2007年、インド国立文学アカデミーより世界で3人目となるドクター・アーナンダ・クマラスワミ・フェローシップを受ける。
財団法人日印協会理事。日本文化デザインフォーラム、日本蜘蛛学会、宇宙作家クラブ会員。国立天文台広報普及委員会委員。

山田真美 公式ホームページ:http://www.yamadamami.com/




 
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